「北斎とジャポニスム」を
120%楽しむための5つのQ&A
教えて!馬渕先生
(国立西洋美術館長・本展監修者)

報道発表会での馬渕館長による展覧会の解説動画を公開中!

Q

ジャポニスムとはなんですか?

A

西洋の美術家が、日本の表現方法を取り入れ自ら芸術表現を発展させた現象

日本は、17世紀初めから19世紀半ばまで鎖国体制を取っていたため、西洋世界との交流はほとんどありませんでした。従って、西洋では日本についての知識がきわめて少なかったので、開国とともにやってきた多くの西洋人が、日本の品物を持ち帰ったり、その様子を紀行本に書いたりしたことで、日本に対する関心が急速に高まりました。また同じ頃にロンドンやパリ、ウィーンなどで万国博覧会が開かれ、そこでも日本の展示は人気を博しました。そうしたなかで、新しい美術表現を模索していた西洋の美術家が、日本の表現の方法を取り入れ、自分たちの芸術を発展させたのが、ジャポニスムなのです。

葛飾北斎『北斎漫画』三編(部分)

葛飾北斎『北斎漫画』三編(部分) 文化12(1815)年 浦上蒼穹堂

ファン・オーフェルメール・フィッスヘル『日本国の知識に対する寄与』

ファン・オーフェルメール・フィッスヘル『日本国の知識に対する寄与』 1833年刊(アムステルダム) 国立西洋美術館

Q

北斎が西洋にもたらした革新とは何でしょうか?

A

「描きたかったものが描ける」

日本の浮世絵作品が持ち込まれる以前の西洋の画家は、多かれ少なかれ、伝統的な「型」にとらわれていました。風景を描くのであれば、ルネサンス以来の3次元の遠近法(一点消失法)を用いるのが一般的でした。浮世絵は、上から下から、時には丸い穴からなど、いろいろな角度から対象を描きます。それが西洋の芸術家たちにとっては新しかったのです。新しい芸術を生みだそうとまさに模索していた西洋の芸術家たちの感性に、浮世絵がはまりました。中でも圧倒的な人気を誇ったのが北斎です。北斎の「冨嶽三十六景」などに代表される風景への視点、『北斎漫画』や『三体画譜』などに代表される、人や動物への親密なまなざしは、印象派の画家たちの「描きたかったものが描ける」という情熱、エネルギーとぶつかり、単なる模写、模倣ではない「ジャポニスム」という新たな現象が引き起こされました。

Q

本展出品作でお気に入り、ぜひ見てほしい作品を教えてください。

A

クロード・モネ 《木の間越しの春》

たくさんありますが、たとえばモネの《木の間越しの春》です。これは制作された当時は、かなりびっくりする表現でした。つまり、先に述べた遠近法的空間表現ではなく、目の前にまるですだれがかかっているように、柳の枝が全面に広がっています。このような視覚体験は誰にでもあるのですが、それを絵画として描こうと思った画家はいませんでした。モネは北斎の『富嶽百景』を所有していたので、その中の「竹林の不二」の見開きページを見ていたと思われます。くっきり描かれた竹林越しにうっすらと描かれる富士山の稜線の表現は、モネがこのような表現を自分の体験と重ねあわせてこの《木の間越しの春》を制作するきっかけとなったと考えられます。

葛飾北斎 『富嶽百景』二編 「竹林の不二」

葛飾北斎 『富嶽百景』二編 「竹林の不二」 天保6(1835)年 浦上蒼穹堂

クロード・モネ 《木の間越しの春》

クロード・モネ 《木の間越しの春》 1878年 油彩、カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ Musée Marmottan Monet, Paris Photo: Bridgeman Images / DNPartcom

Q

なぜ、あまたの浮世絵師の中でも「北斎」なのでしょうか。

A

すべて1人で網羅して描くことができた

北斎作品以外にも、広重の風景画、歌麿の美人画など、多くの浮世絵作品が西洋へ持ち込まれました。しかし、北斎こそが、西洋の芸術家たちにとって、特別な存在と成り得たのです。『北斎漫画』に見られるように、人物も、動植物も、風景も、建築も、すべてを1人で網羅し描くことのできた北斎は、他の絵師と比べて、引用される頻度としても圧倒的でした。また、当時の美術批評家たちの手によって、北斎の名声はさらに高められ、「Hokusai=浮世絵」を意味するほどだったのです。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》

葛飾北斎 《冨嶽三十六景 凱風快晴》 天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 オーストリア工芸美術館、ウィーン MAK-Austrian Museum of Applied Arts/ Contemporary Art, Vienna Photo: ©MAK / Georg Mayer

葛飾北斎『北斎漫画』三編(部分)

葛飾北斎『北斎漫画』三編(部分) 文化12(1815)年刊 浦上蒼穹堂

Q

展覧会を通して伝えたいことは?

A

西洋の画家たちのエネルギーを感じて

北斎作品が持つ、自然や人物、動物への独特かつ親密な視点、大胆な構図の取り方などを、西洋の芸術家たちは自分たちの土壌に引き込み、消化して、そして新たな芸術を創り出しました。北斎もすばらしいですが、そこに新しいものを見いだし、取り込んで、自分たちのものにした、その西洋の画家たちのエネルギーをも感じてほしいと思います。

解説動画

2017年4月に行われた報道発表会での展覧会解説の様子を収録した動画を公開中です。前後編あわせて約18分の解説で、さらに展覧会が楽しくなる!

前編(7:32)

‐収録内容‐
「ジャポニスムって何?」
「"日本ブーム"と違う?」
「影響の有無を判断するには?」
「たまたま似ているだけでは?」
ほか

後編(10:19)

‐収録内容‐
「北斎の卓越した面白さとは…」
「影響は絵画に留まらず…」
「北斎も凄いけど…」
「この展覧会が形になるまで」
ほか

本展監修者

馬渕明子先生

馬渕明子(まぶち・あきこ)

プロフィール

茅ケ崎市生まれ。独立行政法人国立美術館・国立西洋美術館長。ジャポニスム学会会長。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専門は近代西洋美術史。パリ第四大学大学院博士課程で学び、東京大学助手、国立西洋美術館主任研究官、日本女子大学人間社会学部教授等を経て2013年より現職。日本サッカー協会副会長、日本女子サッカーリーグ理事長も務める。主著に『美のヤヌス‐テオフィール・トレと19世紀美術批評』(スカイドア1992年、サントリー学芸賞)、『ジャポニスム―幻想の日本』(ブリュッケ1997年、ジャポニスム学会賞)。